今回のテーマ「染料」のサイエンス
今では化学合成で作られることが多い染料ですが、昔の人たちはさまざまな工夫を凝らして自然界のものから染料を作り出していました。
今回は、そんな先人たちの経験や知恵に隠された科学をご紹介します。
自然界に存在する美しい色、たとえば空の青色や真っ赤な夕日を白い布に写しとりたい、それで着飾りたい、という願望は古くから人類の夢でした。しかし、空の青や夕日の赤を持ってくることはできません。他にも、モルフォ蝶のように美しい青もありますが、以前の番組で触れたように、モルフォ蝶の青は、翅の微細な構造が青い光を反射しているため青く見えるだけです。そのためモルフォ蝶の青い鱗粉で、白い布を青く染めることはできません(フシギなTV No.1「見えるのに見えない!? 青色の秘密」)。
白い布をきれいな色で染めるために必要な染料は、水に溶ける性質を持つことで均一に染めることができます。
一方で、染めた後は、しっかりと布の繊維に結びつくような性質に変える必要があります。不安定な物質は、布を洗ったり、干す時に熱や光に晒されたりして退色してしまいます。つまり、化学的に安定した状態にすることが大切です。
このように、染料にはいろいろな特性が必要です。布をきれいに染めつつ、その色が長持ちするような染料はなかなか見つけることができませんでした。
その中で人類が発見した貴重な染料のひとつがインディゴという青い色素です。タデ科などの植物が作り出す染料で、もともとインドで発見され、ヨーロッパに伝えられたので、インディゴと呼ばれるようになったと言われています。日本の「藍染め」の青色も、インディゴです。
インディゴはもともと水に溶ける性質ではありませんでした。そのため、昔の職人たちは、なんとかこれを水に溶かそうと苦労しました。
一案は、アルカリ性にすることです。そのため昔は染料を取り出すのに腐った尿が使われました。あるいは微生物による発酵法も開発されました。
ところが、水に溶ける状態になった染料は青くありません。
鮮やかな青色にするためには、布を染めた後、空気にさらして染料を酸化させます。そうすることで、同時に水に溶けなくなり、しっかりと布の繊維に結合した状態になるのです。
染めている最中は、染料は青色には見えないので、染める時間や染料の濃度など、職人芸の見せ所になります。天然染料を用いたこのような伝統的な藍染めは現在、非常に貴重なものとなりました。
インディゴは今では工業的に化学合成できるようになり、ジーンズの青など皆さんに広く利用される青色染料となっています。