今回のテーマ「共生」のサイエンス
すべての生物は互いに支え合って生きている、つまり共生しています。
イソギンチャクとカクレクマノミ、牛とその胃にいる微生物、人間と腸内細菌など、さまざまな共生についてご紹介します。
生物の世界では、食う・食われるのような闘争や縄張り争いのような生存競争が絶えず行われているかのように見えますが、実は、互いに助け合ったり、支え合ったりしている側面もたくさんあります。生物は、利己的に振る舞っているというよりは、利他的に振る舞っていると言ってもいいでしょう。利他的というのは、他者に利益を与えつつ、自分も利益を得るような互恵的な関係です。これを共生といいます。
共生の例は至るところにみることができます。顕著なのは長い進化の歴史を持つ植物と昆虫の関係です。植物はよく目立つ花をつけ、蜜を出し、蝶や蜂などの昆虫を呼び寄せます。昆虫は蜜を得る代わりに、花粉を遠く離れた他の花に運んで、植物の受粉を助けます。これは最も歴史の古い共生関係です。
また、アリマキ(アブラムシ)は草の汁を吸って、お尻から甘露という蜜を出します。アリは、この栄養たっぷりの蜜を得る代わりに、アリマキを食べにやってくるテントウムシを追い払います。これも共生です。
植物も根につく微生物の働きによって空気中の窒素からアンモニアなどの栄養を得ています。その代わり植物は微生物に糖などの有機物を与えます。
共生には、相互に利益をもたらす相利共生と、一方だけが利益を得る片利共生があると考えられてきました。片利共生はいわばタダ乗りです。しかしこれは人間の視点からみた勝手な見方で、一方が他方から利益だけを搾取しているように見える片利関係もよく観察すると、完全に公平とはいえないまでも、互恵的であることがわかってきています。
片利共生の代表例として知られてきたコバンザメとサメの関係も、今後、観察が進めば、コバンザメが何らかの利益をサメにもたらしていることが判明するかもしれません。
人間の消化管内にいる腸内細菌も、昔は、人間の栄養をかすめ取っているタダ乗り生物と思われてきました。ところが腸内細菌は、消化管を整えて病原体の侵入を防ぎ、人間の免疫系を刺激してよりよい作用をもたらすだけでなく、人間の心理状態にも影響を及ぼしていることがわかっています。
ちなみに、お母さんの胎内にいるときは、赤ちゃんの消化管内には腸内細菌はいません。これは牛の赤ちゃんでも同じです。生まれてくるとき、お母さんの産道で粘液を介して腸内細菌のもとになる菌を受け取るのです。ですからお母さんから赤ちゃんへの最初のプレゼントは腸内細菌です。
視点を広げてみると、食う・食われる関係も一種の共生関係ともいえます。互いに個体数のバランスを保って同じ環境に共存できているのです。そうでないと一方が増えすぎて、食べ物がなくなり絶滅してしまいます(フシギなTV No.10「もしも人類が不老不死になったら!?」)。縄張り争いも有限の環境を棲み分ける共存の知恵と考えることができます。すべての生物は互いに支え合って生きているのです。