偶然の芸術 マーブルミルクゼリー(No.12 界面活性)
- 調理時間50分
監修:ケーキデザイナー・芸術教育士 太田さちか、東京理科大学 教授 山本貴博 ※監修者の肩書きは掲載当時のものです。
企画制作: 日本ガイシ株式会社
くるくる変わるぐるぐる模様
着色料をミルクに浮かべると、ミルクより軽い着色料は表面に広がり薄い膜のような状態になります。そこに、菜箸につけた少量のミントエッセンスで触れただけで、ミントエッセンスが界面活性剤の役割を果たして着色料を大きく押し退けます。この作業を繰り返すことで、赤色や青色がふわりふわりと液面を広がり合い、複雑で美しいマーブル模様ができるのです。
Science point
分子レベルのアート「墨流し」
水の上に浮かべた墨でマーブル模様を描く「墨流し」は、平安時代から続く日本の伝統芸術の一つです。マーブルミルクゼリーは、この墨流しと同じ原理を用いて、複雑で唯一無二な模様を描き出しているのです。
墨流しを科学の対象として取り上げたのが戦前に活躍した物理学者である寺田寅彦(1878~1935年)*1です。寺田は、水面に広がった墨膜から、肉眼では見ることのできない墨粒子の直径が平均1万分の1ミリメートル程度であることや、墨粒子同士の間隔や構造などを導き出しました。電子顕微鏡が開発される以前に分子レベルの世界を明らかにした寺田の洞察力には驚かされるばかりです。寺田の弟子には世界で初めて人工雪をつくることに成功した中谷宇吉郎(1900~1962年)*2がいることも知られています。
*1 寺田寅彦に関連する実験はこちら
*2 中谷宇吉郎に関連する実験はこちら
界面に広がる油膜で発見
寺田が水面に浮かぶ墨粒子の大きさを求めるよりも200年ほど前に、水面に浮かぶ油の単分子膜に科学的関心を持った研究者がいます。雷の研究で有名なベンジャミン・フランクリン(1706~1790年)です。彼は船旅の途中、油が流出していたある船の船跡だけが他の船と比べて滑らかなことに興味を抱き、海面に広がった油膜には波を鎮める効果があるのではないかと考えました。そこで彼は帰国後、池に油を落として観察した結果、たったスプーン1杯の油が1,000平方メートル(テニスコート約5面分)も広がり、水面の波を鎮めることを実証しました。油がこれほど広がる理由は、油膜の厚さが分子一層、つまり単分子膜であるためです。また、油膜(界面活性剤)が水面の表面張力を低下させたことで、水面に波が立ちづらくなったことも理解できるでしょう。
大理石は地球によるアート作品
マーブル (marble) とは大理石のこと。その語源は古代ギリシャ語の「マルマロス(=輝く石)」です。表面を研磨することで見事に輝く大理石は、「ミロのヴィーナス」など多くの彫刻作品に用いられました。古代から人々を魅了してきた大理石の美しいマーブル模様はどのようにしてできるのでしょうか?大理石は、地中深くにある石灰岩が高温・高圧によって再結晶化されてできた変成岩です。純度の高い石灰岩は白色ですが、不純物が含まれると色がつきます。長い年月の間に再結晶化を繰り返すうちに、白い層と色のついた層が形成されていき、できた大理石が地殻変動によって地表に現れ、雨風にさらされて表面が自然に研磨され、マーブル模様ができたのです。地球によるアート作品ともいえるでしょう。
マーブル模様はサイエンスの宝庫
固体のマーブル模様の代名詞が大理石なら、気体のマーブル模様の代表は木星ではないでしょうか。木星は水素やヘリウムなどの気体でできた惑星で、その直径は地球の約11倍あるにもかかわらず、自転周期はたった10時間。猛スピードで回転しているため、木星では時速500キロメートル以上の強風が吹き荒れて、雲は複雑な流線を描きます。木星の雲の色は、硫黄化合物や有機物の化学反応によるもので、一説によれば、低層の雲が青、中層が茶と白、高層が赤と高度により変化して、美しいマーブル模様になると考えられています。
マーブル模様を見つけたら、ぜひその出現理由を考えてみてください。きっといろいろなサイエンスに出合えることでしょう。
材料
2人分
- 牛乳
- 300g
- グラニュー糖
- 10g
- アガー
- 8g
<カラーゼリー>
- 水
- 50g
- 顆粒ゼラチン
- 1g
- 着色料(青、赤)
- ごく少量
- ミントエッセンス
- 少量
つくり方
- ・グラニュー糖とアガーをあわせておきます。
下準備
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マーブリング液をつくります。耐熱容器に水を入れて電子レンジで30秒(600w)加熱します。
その後、ゼラチンを振り入れて溶かしたら別の容器に等分し、それぞれ着色料で色をつけます。
人肌程度の湯せんにかけて、ゼリーが固まらないように保温しておきます。 -
鍋に牛乳を入れて中火にかけてから、あわせておいたグラニュー糖とアガーを、少しずつ振り入れながら加えていきます。泡立て器などでやさしく混ぜながらしっかり溶かしていきます。一煮立ちしたら鍋を火からおろし、牛乳の表面にできる膜や気泡を取り除きます。
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②を容器に流し入れてから、①を各色それぞれスプーンで上部にそっと1〜2杯流し入れます。
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ミントエッセンスを菜箸の先につけ、③の表面に触れると赤や青が広がります。繰り返すことで複雑なマーブル模様ができます。完成した模様が崩れないように、しばらく室温で固めた後、冷蔵庫に入れてさらに20分冷やし固めます。
牛乳ゼリーが固まってしまうとマーブル模様を描くことができません。
寒い時期などは、人肌程度の湯せんにかけゼリーが固まらないうちに手早くマーブルをつくってください。 -
注意事項
- 必ず手順を読んでから調理を行ってください。
- 調理器具、特に火気などの取り扱いには十分注意し、けがをしないようにしましょう。
- 小学生など低年齢の方が実験を行う場合は、必ず保護者と一緒に行ってください。
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