今回のテーマ「湧昇流」のサイエンス
問題です。真水と塩水、それぞれに氷を入れると、どちらが早く溶けるでしょうか?
今回は、身近なコップの中に起こる対流をきっかけに、海の豊かさをもたらす地球規模のダイナミックな対流について紹介します。
お風呂を沸かして、しばらくしてから湯船につかると、上の方はあたたかいのに、下の方は冷たい、という経験をしたことはありませんか。水はあたたまると軽くなって上昇し、冷えると重くなって下降します。自然界でも同じことが起きています。海では、太陽に熱せられたあたたかい海水は上の方に、太陽の光が届かない冷たい海水は底の方にあります。
でも、お風呂と違って、海の水は絶えず動いています。海の水を動かす力は、温度差による対流の他、風や月の引力、そして地球自体の回転などです。これらが重なり合って生まれた海水の動きを海流といいます。あたたかい海水の動きは暖流、冷たい海水の動きは寒流です。暖流と寒流は対流によって絶えず混じり合っているのです。
寒流は海の底を流れますが、海底の地形は複雑なので、さまざまな枝分かれが生じます。特に寒流が海底火山やその上にできた火山島にぶつかると、寒流は斜面に沿って持ち上げられてきます。そして暖流とぶつかります。これを「湧昇(ゆうしょう)流」といいます。湧昇流には重要な働きがあります。海の底に沈んでいる栄養物やミネラルなどを一気に表面に持ち上げてくれることです。そうすると浅いところにプランクトンや海藻がさかんに生育するようになり、それを食べる小魚が増え、鳥や大きな魚、オットセイなども集まってきます。絶海の孤島であるガラパゴス諸島の近くでは湧昇流が絶え間なく起きています。海が豊かになると陸も豊かになります。ガラパゴス島にたどり着いた鳥が種を運んできて緑が増えました。固有種ガラパゴスゾウガメは、そんな植物を餌にして大型化することができました。またトカゲの一種イグアナは、海藻を食べ物にすることでたくさん増えることができました。つまり、湧昇流は、海と陸をつなぎ、食物連鎖のネットワークをもたらしてくれているわけです。
私たち人間の生活も海の対流の恩恵をうけています。ガラパゴス諸島の近海でとれるイワシ(アンチョビ)は食べ物だけでなく、農作物の重要な肥料になっています。もしこのまま地球温暖化が進むと海流の自然な対流や湧昇流が乱されます。またゴミやプラスチックなどによって海洋汚染が進むと、これも海の生態系に悪影響を及ぼします。海の生物資源が陸の生物資源を支えているので、海の保全と陸の保全は密接につながっています。