今回のテーマ「地球トンネル」の思考実験
地球の裏側にいる、もう一人の自分「対蹠人(たいせきじん)」に会いに行ってみませんか?
福岡ハカセが紡ぐサイエンス・ファンタジーの世界へ、思考実験で旅してみましょう。
地球がまだフラットな平面だと考えられていた頃、自分たちが立っている地面の裏側に、ちょうど鏡に映る向こう側のような世界が広がっているのではないか、と人々が想像をたくましくした、そんなファンタジーのひとつが対蹠人だったと考えられます。
その後、大航海時代を経て、地球が丸い球体であることが分かると、対蹠人の妄想は消えていきました。代わって、自分たち(この場合はヨーロッパ世界という意味ですが)の反対側には、北米・南米などの新大陸が広がっていることを知り、世界観も変化していきました。
同時に、ニュートンなど科学者が現れて、地球の内部が空洞ではなく、重い岩石や金属が詰まっているという理解が進んでいきました。内部が、空洞である場合と詰まっている場合では引力の大きさが違うはずなので、その仮定に基づいて実際の測定が行われたのです。これは思考実験とその実証の例と言えます。
今回の地球トンネルの話は、実際に掘ることは技術的に不可能なので、もしそれができたら、という仮定に基づいて思考実験を進めました。速度や通過時間の計算は、高校数学以上の知識が必要なのでちょっと難しかったかもしれません。しかし、地球トンネルに入ると、重力に引かれてどんどんスピードが増していくことは、高いところからものを落とすことを考えてみると理解できます。ものを落とすと、1秒ごとに9.8m/秒の速度が増えていきます。これを重力加速度と言います。2秒後には19.8m/秒、3秒後には29.4m/秒の速度になります。地球トンネルに飛び込むと、この割合で速度がぐんぐん増加していくのです。
地球の環境問題を考えるとき、思考実験はとても役立ちます。地球温暖化が進むと南極の氷がどんどん解けていきます。もし南極の氷が全て解けたら、海の水位はどれくらい上昇すると思いますか。
思考実験によれば約6メートルと計算されます。そうなると東京やニューヨーク、ロンドンなど、大都市圏でも沿岸部が水没してしまいます。
今、世界的に地球温暖化を食い止める動きが加速しています。
このように、思考実験から地球環境について考え、より良い未来に向かって自分たちの生活に思いを馳せ、見直すこともできるのです。