今回のテーマ「脂質」のサイエンス
普段わたしたちが何気なく摂取している脂。肉やバターに加え、魚や植物油など、あらゆるものに脂=脂質が含まれています。でも、一言で「脂」「脂質」といっても、実は性質の違うものがあるんです。今回は、そんな脂について解説します。
脂質というと、お肉のあぶらみとかバター、クリームのような乳製品を思い浮かべる人が多いでしょう。しかし生命にとって脂質はもっと大事なところで活躍しています。それは細胞を取り囲む細胞膜の主成分として、です。細胞膜は、脂質のシートからできていて、細胞の内側と外側を仕切っています。単なるバリアーではなく、伸びたり縮んだり、自由自在に変形でき、内と外の物質輸送や情報のやりとりもつかさどっているのです。動物性にせよ、植物性にせよ、ほとんどの食材は細胞からできているので、脂質はどんな食品にも含まれていることになります。
脂質を大きく分けると、飽和脂肪酸と不飽和脂肪酸になります。飽和脂肪酸は固まりやすい脂。不飽和脂肪酸は固まりにくい脂。細胞膜は、両者の混合物で、環境の温度によってその比率が調整されます。低温で細胞膜が固まってしまうと生命活動に支障をきたすからです。不飽和脂肪酸の中には人間の体内で合成できないものがあり、これは食品から摂らなければなりません(必須脂肪酸)。必須脂肪酸としてα-リノレン酸やリノール酸などがあり、α-リノレン酸は、エゴマ油やキャノーラ油に多いです。また、α-リノレン酸と、青身の魚に含まれるドコサヘキサエン酸(DHA)やエイコサペンタエン酸(EPA)はオメガ3(n-3)脂肪酸といわれています。
お肉の風味や美味しさは、含まれる脂質によるところが大きく、番組で実験したように、牛、豚、鶏では、脂質の構成が異なります。また、脂質の差は餌の差を大きく反映しており、近年、環境問題への配慮やSDGs(持続可能な開発目標)の取り組みから、畜産飼料についても研究が進められています。
例えば、牛のゲップには多量のメタンが含まれており、メタンは二酸化炭素より強力な温室効果ガスとして問題視されるようになりました。牛のゲップは腸内細菌の活動によって発生します。そこで飼料を工夫することで、メタンの発生を抑えようというわけです。科学研究のヒントはあらゆるところに存在しています。将来、皆さんも是非、面白くて役に立つ研究に取り組んでほしいと願っています。