今回のテーマ「水の循環」のサイエンス
水は飲み水となって私たち生命の命をつなぐ一方で、呼吸や排泄によって再び自然の循環に戻ります。
そんな体内や体外で起こる水の循環について説明します。
水の循環について思いをはせてみましょう。太陽の光で海が熱せられると、海水から真水が蒸発し、大気中に拡散します。やがてそれが上空に昇って冷やされると雨滴や雪になって大地に降り注ぎ、湖沼や川の水となり、再び流れは集まって海に注ぎ込みます。
このとき重要なことは、地球の表面に溜まった熱も、水と一緒に循環しているということです。温められた海水や地表は、水の蒸発とともに冷やされるため、水の循環は自然界のラジエーター(放熱システム)といえるのです。
私たち生命体もまた、この水の循環の中にあります。地下水や河川水を水源として浄化・殺菌された上水道の水を、私たちは毎日飲んでいます。そして体内に入った水は、細胞を潤し、代謝反応を進め、老廃物を溶かし出して、体外へと排出されます。
体内の化学反応はすべて細胞内外の水中で進行し、水は生体成分の運搬役を担っています。
番組でも触れた腎臓は、体内の水、つまり血液をろ過しています。それによって不必要なものは尿として排出され、必要な栄養素やミネラルは再利用されるのです。

水は、単に生命体を通り抜けているだけではありません。
生命を構成するタンパク質、炭水化物、脂質の代謝にも水が必要です。タンパク質が分解されてアミノ酸になるとき、その結合部分に水分子が入り込み、切断が起きます。これを加水分解といいます。つまりアミノ酸には水が含まれているのです。
これは炭水化物が分解されてブドウ糖になるとき、あるいは脂質が分解されて脂肪酸になるときも同じで、生命を構成するあらゆる分子の内外を水は出入りしています。
細胞が水を必要とするのは、太古、生命が誕生したとき、最初の単細胞生物が海の中で生存していたからだといわれています。細胞は、水を介して栄養素やイオンをやりとりしています。陸に上がった生物も、身体の内部に”内なる海”を宿しているのです。
水は空間的な広がりを持つだけでなく、時間的な広がりも持っています。
太古の昔から、地球を循環する水の分子は、かつては誰かの身体を、そして今はあなたの身体を流れているのかもしれません。
呼吸や排泄によって私たちの体外に排出された水蒸気や水は、植物や微生物の働きによって自然の循環の中に戻ります。食物連鎖の中でも水は受け渡されます。植物性・動物性に関わらず食べ物にもたくさんの水が含まれています。
水は生命によって共有され、生命をつなぐ。水は、生命体から生命体へとバトンタッチされる。
つまり、水は自分に必要なだけでなく、他の生物にとっても必要なものです。だからこそ、利己的にではなく、利他的に水を使うことが大切なのです。