フシギなTV

私たちはトウモロコシ人間!?(No36 炭素)

監修:生物学者  福岡伸一 
※監修者の肩書きは掲載当時のものです。
企画制作: 日本ガイシ株式会社

今回のテーマ「炭素」のサイエンス

”脱炭素社会”という言葉があるように、地球温暖化の原因として問題視される二酸化炭素(CO2)ですが、私たち生物は決して炭素と無縁にはなれません。今回は、炭素について紹介します。

福岡ハカセのもう一言よろしいですか?

環境問題についてのスローガンとして”脱炭素社会”という言葉があります。その意図は、石油や石炭を燃やすことによって発生するCO2をできるだけ少なくしようというところにあります。
その志はよいとしても、私たち生命体は炭素の恩恵から完全に脱することはできません。なぜなら生命体の基本骨格は炭素でできているからです。
炭素はアミノ酸の中心に位置する元素で、このアミノ酸が連結してタンパク質ができます。炭素は糖の基本構造にも使われています。ブドウ糖は六単糖といい、六角形の炭素構造を持つ化合物で、ブドウ糖が連結すると小麦や米の主成分であるデンプンになったり、植物繊維であるセルロースになったりします。
地球の生命体はみな、炭素を基本材料としていのちを成立させているのです。

炭素の解説図

そして、すべての食料は他の生物のいのちをいただいているので、ここにも炭素はたっぷり含まれています。身体に取り込まれたアミノ酸やブドウ糖は、身体の構成成分として利用される一方、エネルギー源としても使われます。
これらは細胞の中でゆっくりと燃やされる、正確にいうと酸化されますが、これが私たちの体温になり、運動のエネルギーになるのです。
細胞内のアミノ酸やブドウ糖の酸化は、原理的には石油や石炭の燃焼と化学的には同じです。熱とエネルギーが発生するかわりに燃えカスとしてCO2と水ができ、呼気や汗となって体外に排出されます。
だから生命が生きていく以上、決して炭素と無縁になることはできず、生物自身がCO2の発生源となっているのです。

CO2は、地球温暖化の原因として悪者扱いされていますが、決して毒でもゴミでもなく、生命にとってなくてはならないものなのです。
植物はCO2を吸収して太陽のエネルギーを使ってブドウ糖やアミノ酸に戻し、植物自身の栄養と生育の材料とします。一方、植物は非常に利他的に振る舞って、酸素に加えて葉っぱや果実、地下茎のかたちで他の生物の食料として分け与えてくれます。

炭素の解説図

だから動植物の生命活動がバランスよく循環しているかぎりにおいて、CO2は炭素循環の一形態として存在するだけで悪者でも廃棄物でもないのです。
少なくともヒトが登場するまでの地球環境では健全な炭素循環が保たれていました。

ところがヒトが生まれ、文明と都市を作り出し、石油や石炭を燃やしてエネルギーを取り出すことが始まって以来、このバランスが乱れています。CO2の生産量が急上昇し、一方、開発によって森林を伐採することで植物の働きを弱めてしまったのです。
結果として大気中のCO2の濃度が徐々に増加し、地球全体を薄いカバーのように覆って、気温を上昇させることにつながっています。気温が上昇すると南極や北極、高地の氷雪が溶け、海面が上昇します。すると海岸地帯の都市や島が水没する可能性があります。

ヒトの都市生活・経済活動によるCO2の排出を減らし、一方で緑化を進めることによって、炭素循環の健全なバランスを取り戻すことが環境問題解決の切り札となるのです。

減らすだけでなく、大気中に含まれる二酸化炭素を回収する技術開発も進められています。
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