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どちらがお得?生物界の持ち家派vs賃貸派(No26 生き方の選択)

監修:生物学者  福岡伸一 
※監修者の肩書きは掲載当時のものです。
企画制作: 日本ガイシ株式会社

今回のテーマ「生き方の選択」のサイエンス

人間と同じように、生物界にも持ち家派・賃貸派論争があることを知っていますか?
実は、生物界ではこの論争には決着がついているのです。
今回は、家を持つ / 持たないそれぞれを選択した身近な生物についてご紹介します。

福岡ハカセのもう一言よろしいですか?

同じコストを払いつづけるなら家賃ではなく、ローンを払って最後は自分の持ち家になる方がいい。いやいや、人生、いつ何時、何が起きるか分からないから、巨額の借金など背負わず、住みたい場所に住める賃貸のほうがいい。
わたしたち人類にとって、持ち家派VS賃貸派は、住まいを巡る永遠の論争です。

ところが、進化論的に見ると、この論争は決着がついているのです。ナメクジとカタツムリを見てみましょう。
ナメクジが進化して防衛防御のために殻をまとったのがカタツムリのように思うかもしれませんが、そうではありません。実はカタツムリがその殻を捨てたことによって誕生したのがナメクジなのです。
どうしてそんな順番が分かるかって?
それは殻の痕跡を残したナメクジが存在するからです。では、なにゆえ殻を捨てたのか。その理由は、「持ち家」の負担に耐えかねたからなのです。殻を作り、維持するには膨大なカルシウムの摂取が必要で、殻を合成するにもエネルギーが必要です。いっそ殻を脱げば、そんな苦労もないし身軽、さらに隠れたいときは隙間に潜ることもできます。すると新しい餌にもありつくことができるようになります。

生き方の選択の解説図

ということは、賃貸派の勝ちということでしょうか?
実はそんなに簡単に答えを出すことはできません。確かに殻を捨てた軟体動物は、その後、劇的な進化を果たしましたが、持ち家派のカタツムリ(および貝類)も現在ちゃんと生存しているし、貝類は多種多様な発展を遂げています。硬い貝殻は、その維持にコストはかかるものの、外敵や環境の変化から身を守ることができます。

大切なのは、どちらが有利・不利ということではなく、選択の自由があり、生き方の違いが許されていることです。
それによって新しい生活の場所と方法を模索できることこそが、生物多様性の最も肝心なポイントなのです。

生き方の選択の解説図

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