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脳は最強のバーチャルアシスタント!?(No23 錯視)

監修:生物学者  福岡伸一 
※監修者の肩書きは掲載当時のものです。
企画制作: 日本ガイシ株式会社

今回のテーマ「錯視」のサイエンス

見間違いや読み間違いなどのうっかりミスは脳の宿命!?
人間の脳には、雑多な視覚情報の中からすばやく手がかりを抽出し、足りない部分を補完する作用が働いていますが、その反面、エラーや間違いを起こしやすいという特性もあるのです。

福岡ハカセのもう一言よろしいですか?

今回は、脳の働きについて取り上げてみました。たとえば、丸い点が二つ並んでいるだけで、それは目のように見え、ヒトの顔が浮かんできます。これは脳が足りない情報を補って、視覚情報に意味を与えているからです。どうしてこのようなことが起きるのでしょうか。こんな疑問も、進化の流れの中で捉えなおすと答えが見つかります。生物にとって、草木の生い茂るジャングルの中や、暗がりの中で、素早く敵を見つけること、あるいは仲間を見分けることは生存のためにとても重要なことでした。そこで、雑多な視覚情報の中から、瞬時に手がかりを抽出し、足りない部分を補って、情報を得る能力が進化してきました。それが脳の補完作用です。

錯視の解説図

これは人間にだけいえることではなく、生物全般にいえることです。たとえば、南米の蝶の翅には大きな黒い丸が左右に描かれた模様を持つものがいます。おそらくこの模様は、蝶を食べようとする天敵(カエルやトカゲのような捕食者)にとっては、脳の補完機能によって、フクロウやタカのような敵を思い描かせるものとなっているのです。それゆえ、捕食者がひるんだ隙に逃げ出すチャンスが生まれ、それが生存に役立ったのだ、と考えることができます。

脳の補完作用はいろいろなところに現れます。消えかかった文字でも読み取れるのは、見えない線をつなぐ作用が脳にはあるからです。逆に、「ありがとうござまいした」という文章も、「ありがとうございました」と読めてしまいます。これも脳が補正してくれているおかげです。

錯視の解説図

この補完作用がかえって災いになるケースがあります。文章の誤字脱字やタイプミスを見つける職業を校閲者といいます。校閲者は、原稿を読むとき、なるべく意味を考えないようにして文字を見る訓練をするそうです。意味を考えて読むと、表記のミスを脳が勝手に補完して読んでしまい、ミスが発見しにくくなるからです。

脳はエラーや間違いを起こしやすい反面、AIやコンピューターに負けない素晴らしい能力を持っています。AIやコンピューターは、あらかじめ履歴やデータベースがないと答えを探しだすことができません。でも人間の脳は、まったく履歴のないこと、自分の脳の中に予備知識がないことでも、考えたり、発想したりすることができます。つまりゼロから創造できる力が脳の一番の特性といえます。

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