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絵の中の幻の音楽がよみがえる!(No.16 フェルメールの音楽)

監修:生物学者  福岡伸一 
※監修者の肩書きは掲載当時のものです。
企画制作: 日本ガイシ株式会社

今回のテーマ「フェルメールの音楽」のサイエンス

フェルメールの未発表作品が発見!?
実は、見つかったのは絵の中に描かれた音楽です。なんとデジタル技術を用いた科学的なアプローチで楽譜を解読し、300年の時を越えて現代によみがえりました。では聴いてみましょう。

福岡ハカセのもう一言よろしいですか?

わたしが大好きなフェルメールの絵。よく見ると、絵の中には音楽シーンで満ち溢れていることがわかります。ギターを弾く少女、ヴァージナル(ピアノの原型となった楽器)を演奏する生徒と先生、リュートの手をとめて窓を眺める女。もちろん絵なのでその音色を聞くことはできません。

フェルメールの音楽の解説図

フェルメールが生きたのは1632年から1675年。音楽の父、J.S.バッハが生まれたのは1685年です。ですからフェルメールの絵の中の人々が楽しんでいたのは、バッハ以前の音楽ということになります。それほど古い音楽を、私たちはあまり知りません。そこで今回は、フェルメールの絵の中に描かれている楽譜を解読して、フェルメールの時代の音楽の再現にチャレンジしてみました。

ニューヨークのフリック・コレクション美術館に所蔵されている「稽古の中断」というフェルメール作品に注目しました。この中に楽譜が描かれているのです。目を凝らしてみると、そこには音符らしい記号も見え隠れしています。フェルメールは、科学的なマインドの持ち主で、なんでもかんでも、ありのままに、まるで写真のように、描き写していたに違いない、というのが私の仮説です。現に、地球儀、書籍、製図道具類などは実在のものを正確に写し取っていることがわかっています。

フェルメールの音楽の解説図

高解像度の原画データを元に、デジタル技術を使って拡大や平面化(楽譜は、開いた本の一ページのように曲面を描いています)を繰り返し、音符の位置をできるだけ正確に抽出していきました。当時、すでに五線譜があったことがわかっています。ただし、フェルメールの絵では線は消えてしまっています。

フェルメールの音楽の解説図

音符は、線の上か間にしか位置取りしないので、重ね合わせた仮想の五線譜の上に、一つひとつ落とし込んでいきました。こうして再現された音楽をみなさんに聞いてもらったわけです。驚くべきことに、ちゃんとメロディを伴った、どことなく悲しい曲想になっていると思いませんか。ただし、何調の曲なのか、それぞれの音符が何分音符なのかまでは不明です。さらなる探求が必要です。一方、この再現曲を聴いた世界のどこかの音楽史の研究者が、これは誰それの何という曲ではないか、と指摘してくれることを期待しています。

フェルメールの音楽の解説図

何事も“知りたい!”という好奇心を出発点にして、アプローチの方法をあれこれ試行錯誤していくと、最初は不可能に思えた謎に近づいていけるものです。そんな探求はとても楽しいものです。

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