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逃れられない宇宙の大原則(#13 エントロピー)

監修:生物学者  福岡伸一 
※監修者の肩書きは掲載当時のものです。
企画制作: 日本ガイシ株式会社

今回のテーマ「老化」のサイエンス

机が散らかるのも、熱いコーヒーが冷めるのも、年齢とともに老いるのも、全ては宇宙の大原則に基づいている!?
“秩序あるものは、秩序がなくなる方向にしか動かない”という「エントロピー増大の法則」に抗う細胞の仕組みと、生物はなぜ死ぬのかについて福岡ハカセが紐解きます。

福岡ハカセのもう一言よろしいですか?

皆さんは整理整頓、得意ですか。でもどんなにきれいにした勉強机も、ちょっとするとノートや本が重なり、消しゴムのカスが散らばって乱れてきますよね。これは難しい言葉でいうと「エントロピー増大の法則」が働いているからです。エントロピーとは物理学の言葉で、日本語では”乱雑さ”を意味します。秩序あるものは、秩序がなくなる方向にしか動かない、という宇宙の大原則のことです。

整理整頓しておいた机がすぐに散らかるのも、水に落としたインクがだんだん広がっていくのも、熱いコーヒーが冷めていくのも、すべて物質や熱が、乱雑に広がっていこうとするからです。ピラミッドみたいな壮麗で巨大な建造物も長い年月を経て、だんだん風化していきます。形あるものは形がなくなる方向にしか進まない。これもエントロピー増大の法則です。

エントロピー増大の法則解説図

エントロピー増大の法則は、生物にも降り注いできます。生命現象はとても秩序だった仕組みです。ですから、常に秩序がない方向に壊されようとしています。私たちの体の中でも、細胞の膜は絶えず、活性酸素によって傷つけられています。細胞内外のタンパク質は切断されたり、変性したりしています。また、酸化物や変性物は体内でゴミや老廃物となります。年齢とともに、皮膚の弾力性を保つコラーゲンが不足してきたり、シミが増えたりする老化現象も、エントロピー増大の法則の結果です。

老化現象の解説図

とはいえ生物は、ただただエントロピー増大の法則にやられっぱなしではありません。なんとかエントロピー増大の法則に抗おうとして、日々戦っています。その方法は、エントロピー増大の法則が襲ってくるよりも先回りして、細胞やタンパク質を率先して分解して、また新たに作り直すことによります。福岡ハカセはこれを生命の「動的平衡」と呼んでいます。絶えず動きながら更新しているのです。そのため、細胞内では作ることよりも、壊す仕組みの方が何重にも準備されていることが近年明らかになってきました。ノーベル賞を受賞した大隅良典先生のオートファジー(細胞分解)の研究がその代表例です。

細胞の解説図

動的平衡の働きによって、エントロピー増大の法則と戦いながら、人間は80年とか90年といった長い生命の時間を得ることができるのです。とはいえ、宇宙の大原則であるエントロピー増大の法則に打ち勝つことはできません。老化しつつ最後には負けてしまいます。これが寿命ということです。でもこれは悲しむべきことではありません。生命は有限であるがゆえに価値があり、今を一生懸命生きることに意味があるわけです。そして個体の生命は有限ですが、動的平衡は他の生命に絶えず受け継がれ、38億年もの長い生命の時間が連続しているわけです。私たちは生命の連鎖の貴重な一員です。

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