今回のテーマ「ジェンダー」のサイエンス
生物にオスとメスがいる理由は? 人間だけが獲得できた自由とは?
オスがつくられた歴史を紐解きながら、ジェンダーについて生物学的に迫ります。
生物にはオスとメスがあります。カブトムシのようにオスの方が大きい生物がいる一方、チョウチンアンコウのようにメスの方が圧倒的に大きい生物もいます。チョウチンアンコウのオスはメスの100分の1くらいの大きさで、メスのお腹の底に貼り付いています。
生物にオスとメスがいる理由はなんでしょうか。それはオスとメスが協力して子孫を残すことによって、オスとメスの持つ情報(情報は遺伝子に書き込まれています)を混ぜ合わせることができるからです。これを有性生殖といいます。情報を混ぜ合わせることによって、情報の組み合わせを持つ子孫が誕生し、それが新しい変化をもたらすからです。
オスとメスがいない生物もあります。メスしかいない生物です。例えば、草木の茎についているアリマキ(アブラムシ)などがそうです。アリマキはメスがひとりで、メスを生みます。情報(遺伝子)の混ぜ合わせがないので、自分そっくりの子どもになります。これを単為生殖といいます。生存環境が良好ならば、誰の力も借りずにメスがメスを生む単為生殖の方法は効率がよく、たくさんの子孫が誕生します。しかし、単為生殖では情報(遺伝子)の混ぜ合わせがないので、変化がありません。もし生存環境が激変すれば、同じ性質の個体は全滅してしまう可能性があります。生物は、環境の変化に備えて、自分たちの情報にも新しい変化を必要としているのです。この変化を生み出すために、オスとメスによる有性生殖が生み出されたのです。
その様子は、アリマキを観察するとよくわかります。メスしかいなかったアリマキは、冬が近くなると、オスを生み出します。オスはメスに比べて、痩せています。ただしメスと違って羽を持っています。オスの役割は遠くに飛んでいってお母さんの遺伝子を、どこか別のメスのところに届けることです。そして情報を混ぜ合わせて、新しい変化を生み出すことです。そうすれば、その冬がことさら厳しくても、生き延びるチャンスが生まれるからです。アリマキは単為生殖と有性生殖の両方ができるのです。そして、オスの役割が遺伝子の運び屋だということを教えてくれます。
人間にもオスとメス、つまり男と女があります。それは基本的には、有性生殖によって遺伝子を混ぜ合わせ次世代を作るためです。しかし人間は、生殖の役割よりも個人の自由度を尊重する生き方を選びました。男や女にこだわらず、子どもを持つ・持たないも選択の自由です。こんな自由を獲得できた生物は人間以外にいません。たいへんすばらしいことだと思います。