監修:空想科学研究所 柳田理科雄
企画制作: NGK株式会社
光を浴びて
静かに舞う乗り物
日光を受け、泳ぐように空を進む巨大な飛行船。もしも、そんな乗り物が遠くない未来に実現したら――。
その動力として考えられるのが、光を当てると変形する「光運動材料」だ。光が当たると曲がり、遮光すると元の形に戻る薄いシートを少しずつずらして層状に並べ、光で動くヒレをつくる。光を受けたシートはゆるやかに曲がり、隣のシートとの重なりが大きくなる。それによって光を遮られたシートは元の形に戻り、再び光を受ける。それぞれのシートがタイミングをずらして、こうした変形と復元を繰り返すことで、ヒレ全体が波打つように動く。
これまで開発されてきたソーラー航空機は、動力源(太陽光パネル)と、駆動機構(モーターやプロペラ)を必要とするが、このヒレは単独で両方の役割を果たせる。
たとえば、全長100m、直径20mほどの飛行船に、このヒレをつけるとしよう。空気より軽い気体の浮力で船体を支え、ヒレの動きによって大きな騒音を出さずに前へ進む。ヒレが太陽光を受ける面積を、船体表面積の約4分の1にあたる1500㎡とし、晴天時の日射の強さを1㎡あたり1kWとすると、ヒレが受け取る光のパワーは1500kWに達する。仮に、その3%を運動に変えられれば、得られる出力は45kWになる。
軽自動車1台分に相当する力が、降り注ぐ太陽光から生み出されるのだ。
推進のための燃料補給や充電を必要とせず、静かに光で動くヒレは、まるで空を泳いでいるかのような新しい体験をもたらしてくれるだろう。
サイエンスコラム
電源不要!
光で動くプラスチック
光運動材料とは、光を当てると、曲がる・縮む・ねじれるなど動きを生み出す材料です。光に反応して分子の並び方や形が変わることで、光エネルギーを運動エネルギーへと直接変換します。いわば、光で動くプラスチックです。 プラスチックを光で動かす技術の先駆けとなったのが、2003年に世界で初めて報告された、光によってプラスチックが曲がる現象です。当時の材料は、紫外線を受けると曲がり、可視光を当てると元の形に戻るものでした。その後、光を当てると曲がり、遮ると元に戻るプラスチックのシートも開発されました。 光運動材料の曲がる力は、単位面積で見ると人間の筋肉よりも大きく、光を高効率で動く力に変えられます。強度を高めた光運動材料によって、実際にモーターのように回転させたり、くねくねと“しゃくとり虫”のように動かしたりすることにも成功しています。 近年では、動きの精密さや多彩さも向上しています。電源を必要とせず、光だけで多様な動きを生み出す技術として、今後の幅広い応用が期待されています。