監修:空想科学研究所 柳田理科雄
企画制作:
NGK株式会社
体からの“便り”を解読。
診断から処方まで全自動の日常へ。
日頃、体調の変化を何で感じるだろうか? よくあるのは、寝起きの良さや、顔色、そして「お通じ」ではないだろうか。排泄物は食べ物の消化・吸収を経て届けられる、今の体調を知らせる情報の塊でもある。
もしも、自宅のトイレがその“便り”を読み解き、体の状態をすぐに教えてくれる最高のかかりつけ医になったら──。
トイレのバイオセンサーが排泄物をスキャンし、成分からわずかな異変をキャッチする。さらに、その原因を特定するために、体調と病気の間にある複雑な因果関係を見極める。現状、診断には医師の深い知識と経験が不可欠だが、近年は「因果」の推論に特化したAIの研究が急速に進んでいる。スマートトイレが生活習慣の改善提案から処方までをシームレスに行う未来も、決して夢ではない。
そんなトイレが家庭に普及すれば、家族以上に自分の体について知る“主治医”からのメッセージに一喜一憂する日常が訪れるかもしれない。
サイエンスコラム
長寿者から発見された
「腸内細菌由来の物質」
私たちの腸には約1000種類、100兆個もの細菌が生息しているとされ、便には役目を終えた腸内細菌が膨大に含まれています。近年、この便の中にある多種多様な腸内細菌の遺伝子を、一括して大量に解析できるようになりました。そしてその解析の結果、腸内細菌は単に「お腹の調子」を整えるだけでなく、全身に大きな影響を及ぼしていることがわかってきたのです。
たとえば、腸内細菌によって作られる「酪酸(らくさん)」には、体内の炎症を抑える大切な作用があります。実際に、2型糖尿病の患者の腸内では、この酪酸を作り出す細菌が減っていることが明らかになっています。
また、100歳以上の長寿者の便を調べた研究では、ある興味深い発見がありました。長生きの人の便には「イソアロリトコール酸」という物質が多く、これが特定の腸内細菌によって作られていることが突き止められたのです。イソアロリトコール酸には、人体に悪い作用をもたらす「悪玉菌」の増殖を強力に抑える効果があります。
このように、便は単なる排泄物ではなく、健康や長寿のヒントが詰まった“情報の宝庫”なのです。