なんでだろう?
並んだ球に鉄球をぶつけると、先頭が勢いよく飛び出しました
そうなんだ!
ガウス加速器を知っていますか? 2個以上の鉄球と磁石を並べて置き、もう1個の鉄球を磁石にぶつけます。
すると、いちばん端の鉄球が、ぶつけた鉄球より速い速度で飛び出すという装置です。今回は端の鉄球をプラスチックのビーズに替えて実験しましょう。すると、さらに勢いよく超高速で飛び出します。
超高速加速の秘密を解く前に、まず通常のガウス加速から考えてみましょう。運動量保存の法則に従うと、並べて置かれた球に別の球をぶつけた場合、運動エネルギーが次々に伝わるので、端の球がぶつけた球とほぼ同じ速度で飛び出します。ところが、ガウス加速器では鉄球を磁石にぶつけるので、鉄球は磁力によって引っぱられます。磁力は距離が近いほど大きく作用するので、ぶつかる直前には非常に大きく加速し、その運動エネルギーが端の球に伝わるので、ぶつけた球より高速で飛び出すのです。では、ビーズが鉄球よりさらに高速になるのはなぜでしょう?
ひとつは球の質量です。同じ大きさのビーズは鉄球より軽いので、同じ運動量を与えられると鉄球より速く動きます。もうひとつは磁力の影響です。鉄球では飛び出す際にも磁力が作用し、運動エネルギーが磁力で一部打ち消され、減少します。ビーズでは磁力の影響がないので、鉄球より高速になるのです。
1. 幅16mmの配線カバー(モール) 1m
※ ふたの部分だけ使います。
2. 鉄球(直径約12mm) 3個
3. プラスチックのビーズ(直径約12mm) 1個
4. ネオジム磁石(直径約13mm、厚さ約2.5mm) 4個
・セロハンテープ
・定規
・本など
実験で使用した材料の詳細
・配線カバー エレコム Laneed フラットモール テープ付 LD-GAF1/WD(木目)
・鉄球 泰豊トレーディング Eggsスチールボール 12.7mm(20入り)
・プラスチックのビーズ 大創産業 プラビーズ 約12mm
・ネオジム磁石 大創産業 超強力マグネット(4コ入)
[実験の注意]
・NGKサイエンスサイトで紹介する実験は、あくまでも家庭で手軽にできる科学実験を目的としたものであり、工作の完成品は市販品と同等、もしくは代用品となるものではないことを理解したうえで、個人の責任において実験を行ってください。
・必ず手順を読んでから工作・実験を行ってください。
・器具の取り扱いには十分注意し、けがをしないようにしましょう。
・小学生など低年齢の方が実験を行う場合は、必ず保護者と一緒に行ってください。
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1
配線カバーのふたの部分を使ってレールにします。
レールの端から約24cmのところにネオジム磁石をセロハンテープで図のように固定します。 -
2
壁にテーブルをピッタリつけ、レールを図のように曲げて上端をテープで壁に固定します。
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3
レールの磁石部分をテープでテーブルに固定します。
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4
テーブル側のレールの端が少し持ち上がるように、レールの端から約4cmのところに高さ約6cmの本などをはさみます。
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5
磁石の前に鉄球を2個置き、レールの端から鉄球を1個転がします。鉄球が磁石にぶつかると先頭の鉄球が勢いよく飛び出します。これが通常のガウス加速です。
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6
先頭の鉄球のかわりにビーズを置き、鉄球と密着させます。レールの端から鉄球を転がして磁石にぶつかると、ビーズが【5】のときよりさらに勢いよく飛び出します。
実験を成功させるコツとヒント
・配線カバー(モール)はさまざまなタイプがあり、微妙にサイズや形状が異なります。鉄球がスムーズにころがるものを選んでください。
・プラスチックのビーズで実験するときは、隣接する鉄球と密着していることを確認してください。わずかでもすき間があると力が伝わらず、十分な加速が得られません。
物質と宇宙の謎を解明!最先端の物理学を支える加速器
実験で使ったガウス加速器は、磁力を使って鉄球などを飛ばすものです。実は同じような発想で作られ、最先端の物理学の研究に欠かせない加速器があります。原子やさらに小さい粒子を超高速にする加速器で、新元素「ニホニウム」の発見や、ノーベル賞を受賞した数々の研究にも大きな役割を果たしました。物理学の実験に使われる加速器は、電子や陽子などの電気を帯びた粒子を電気の力で引っぱって加速します。光速近くまで加速した粒子同士を衝突させることで、素粒子と呼ばれる物質の最も小さい単位を調べたり、宇宙が誕生した頃の状態を作り出したりします。これらの最先端の研究に使われる装置は非常に大規模なもので、茨城県のつくば市にある高エネルギー加速器研究機構のものは周囲が3km、フランスとスイスの国境にある欧州合同原子核研究機関(CERN)のものは、周囲が27kmにもなる円形の装置です。
運動量保存の法則はガウス加速でも守られている?
ガウス加速では、ぶつけた球と飛び出した球の速度が明らかに違い、運動量保存の法則に矛盾しているように見えます。ただし、運動量保存の法則が成り立つためには、外部からのエネルギーの増減がないという条件が必要です。ぶつかる前後で、運動量とエネルギーのうちわけを詳しく見てみましょう。
ぶつける鉄球は高い位置から転がすので、位置エネルギー〈Ep〉に由来する運動量を持っています。また、磁石は磁気による位置エネルギーを持っており、磁石と鉄球の間には引力(磁力)がはたらきます。鉄球が磁石に近づくと磁気による位置エネルギー〈Ea〉は運動エネルギーに変わり、〈Ep+Ea〉に対応する運動量でぶつかります。
次に飛び出すときを考えます。磁石によって磁化されている鉄球から端の鉄球が切り離されるとき、運動エネルギーの一部が磁気による位置エネルギー〈Eb〉に変わるので、対応する運動量は〈Ep+Ea−Eb〉になります。磁気による位置エネルギーは距離が近いほど大きいので、磁石と近い〈Ea〉は磁石と遠い〈Eb〉より大きくなり、その差がぶつかる前後の運動量の差になります。つまり、ぶつかった後は磁気による位置エネルギーが必ず増えているので、運動量が増加するのです。端の鉄球を磁力のはたらかないビーズに変えると、〈Eb〉はゼロになり、ビーズは鉄球よりさらに大きな運動量を持ちます。
NGKサイエンスサイトで紹介する実験は、あくまでも家庭で手軽にできる科学実験を目的としたものです。工作の完成品は市販品と同等ではなく、代用品にもならないことを理解したうえで、個人の責任において実験を行ってください。
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